会社(事業主)が倒産し、賃金が支払われないまま退職した労働者であれば、未払賃金立替払制度で未払賃金の一部(原則8割)を受け取れます。請求は独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)に対して行い、期限は破産手続開始等の決定日または労働基準監督署長の認定日の翌日から2年以内です。対象になるかは、退職後6か月以内に裁判所への申立てまたは労働基準監督署長への認定申請が行われているかが分かれ目になります(2026年9月3日時点の公式情報で確認)。
未払賃金立替払制度とは
未払賃金立替払制度は、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づき、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者とその家族の生活を支えるため、JOHASが事業主に代わって未払賃金の一部を立て替えて支払う制度です。立替払を行った場合、機構は労働者の賃金請求権を代位取得し、本来の支払責任者である事業主に求償します。制度は全国の労働基準監督署とJOHASで実施されています。
対象となる人と主な要件
立替払を受けられるのは、次のような要件を満たす方です。パート・アルバイトも「労働者」に含まれますが、同居の親族・家内労働者・代表権のある会社役員は原則として対象になりません。
対象となる主な要件の一覧です。
- 労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業で1年以上事業活動を行っていた事業主(法人・個人は問いません)に雇用されていた
- 労働基準法第9条の「労働者」であり、企業倒産に伴って賃金が支払われないまま退職した
- 倒産の類型が「法律上の倒産」(破産手続開始・特別清算・民事再生・会社更生の各決定または命令)か、中小企業の「事実上の倒産」(労働基準監督署長の認定)である
- 裁判所への破産手続開始等の申立日(法律上の倒産)または労働基準監督署長への認定申請日(事実上の倒産)の6か月前の日から2年の間に退職した
- 未払賃金額などについて、法律上の倒産では破産管財人等の証明を、事実上の倒産では労働基準監督署長の確認を受けた
対象になる未払賃金と支給額
立替払の対象になるのは、退職日の6か月前の日からJOHASへの請求日の前日までに支払期日が到来している「定期賃金」(基本給・家族手当・通勤手当・時間外手当など。所得税・住民税・社会保険料などの法定控除前の額)と「退職手当」(就業規則や退職金規程などに基づいて支給される退職金)です。未払賃金総額が2万円未満の場合は対象外です。
立替払の対象にならないものの例です。
- 賞与(ボーナス)その他臨時的に支払われる賃金
- 解雇予告手当
- 賃金の延滞利息
- 年末調整による税金の還付金
- 慰労金・祝金名目の恩恵的または福利厚生上の給付、実費弁償としての旅費・用品代など
支給額は、対象となる未払賃金総額の100分の80です。ただし、未払賃金総額には退職日の年齢による限度額があり、実際に受け取れる立替払額の上限は88万円から296万円の範囲です(東京労働局)。JOHASの例では、32歳・未払賃金総額170万円の場合、30歳以上45歳未満の限度額220万円を超えないため、170万円×80%=136万円が支払われます。
請求できる期間(2年の期限)
立替払の請求ができる期間は、法律上の倒産では裁判所の破産手続開始等の決定日・命令日の翌日から起算して2年以内、事実上の倒産では労働基準監督署長が倒産の認定をした日の翌日から起算して2年以内です。この期間内に「未払賃金立替払請求書」を機構に提出しなければならず、期間を過ぎると立替払を受けることができません(JOHAS)。
手続きの流れ(法律上の倒産の場合)
破産手続開始等の類型に応じた証明者(破産管財人など)に対して、立替払請求に必要な事項の証明を申請します。
証明書が交付されたら、「未払賃金立替払請求書・証明書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」に必要事項を記入します。
証明書と切り離さずに、そのままJOHASへ送付します(電子請求も可能です)。
証明の全部または一部を破産管財人等から得られなかった場合は、労働基準監督署長に対して、証明を得られなかった事項の確認申請ができます。詳細は疎明資料や証明書を持参のうえ、最寄りの労働基準監督署に相談してください。
手続きの流れ(事実上の倒産の場合・中小企業のみ)
労働基準監督署長に対して、事業活動の停止・再開の見込みなし・賃金支払能力なしの状態について、事実上の倒産の認定を申請します。退職した労働者が2人以上いる場合は、そのうち1人が認定を受ければ足り、効果は他の退職労働者にも及びます。
認定通知書が交付されたら、労働基準監督署長に対して、立替払請求に必要な事項の確認を申請します。
確認通知書が交付されたら、「未払賃金立替払請求書」と「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」を記入し、確認通知書と切り離さずにJOHASへ送付します(電子請求も可能です)。
必要書類と様式の入手方法
請求までに用意する主な書類です。
様式はJOHASのホームページからダウンロードできます。ダウンロードできない場合には労働基準監督署にも備え付けがあるため、問い合わせてください。また、令和2年12月25日以降は、請求書(1か所)と退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書(1か所)の押印がないものについても受け付けられています(JOHAS)。
支払いと税金の扱い
機構が請求書を審査し、支払が決定すると、「未払賃金立替払決定支払通知書」(退職所得に関する源泉徴収票を含みます)が請求者に送付され、請求者が指定した本人名義の普通預金口座に振り込まれます。立替払金は、定期賃金分・退職手当分のいずれも租税特別措置法の規定により退職所得として扱われ、他の所得と分離して課税されます。退職所得控除が認められているため、請求書下欄の申告書を記入して申告すると控除を受けられます(JOHAS)。
会社が倒産していない場合は対象外です
この制度は、法律上の倒産の手続、または労働基準監督署長が認定する事実上の倒産を前提にしています。会社が倒産していないのに賃金を支払ってもらえない場合は対象外です。その場合は、最寄りの労働基準監督署や総合労働相談コーナーへ相談してください。賃金の回収手段は個別の事情により異なり、弁護士などの専門家への相談が必要になることもあります。
よくある質問
退職してから半年以上たってから会社の倒産手続きが始まった場合は対象になりますか?
JOHASの要件では、破産手続開始等の申立日等の6か月前の日から2年の間に退職していること、かつ退職後6か月以内に申立てまたは認定申請が行われていることが必要です。退職時期と申立て等の時期によって対象になるかが変わるため、管轄の労働基準監督署またはJOHAS未払賃金立替払相談コーナーで確認してください。
ボーナスや退職金も立て替えてもらえますか?
ボーナス(賞与)など臨時的に支払われる賃金は対象外です。退職手当は、労働協約や就業規則(退職金規程)などに基づいて支給される退職金が対象で、中小企業退職金共済制度などの社外積立制度から支払われる分は差し引かれます。
8割以外の残りの未払賃金はどうなりますか?
立替払は未払賃金の一部を国が代わって支払う制度です。機構は支払った額に相当する賃金請求権を労働者から代位取得し、事業主などに対して求償します。残りの部分の回収状況は破産手続での扱いなどによって異なるため、破産管財人等または労働基準監督署で確認してください。
確認した主な公式情報(2026年9月3日時点): JOHAS「未払賃金の立替払事業」の概要・請求書等一覧、厚生労働省東京労働局「未払賃金立替払制度」。制度の当てはめは個別事情で判断されるため、実際の請求前には管轄の労働基準監督署またはJOHAS未払賃金立替払相談コーナー(電話044-431-8663・平日9:15〜17:00)へご確認ください。
まずは、雇用されていた期間や未払いとなった給与の支払期日が分かる書類(給与明細・雇用契約書など)を整理し、最寄りの労働基準監督署へ相談することから始めてください。倒産の類型や請求ルートが分からない場合も、労働基準監督署で案内を受けられます。